Night 2.『プロジェクター』
ガラガラ
シュッ
フー
女「ねえ、一つ質問していい?」
男「うん、なんでも。質問されることは嫌いじゃない」
女「だと思った。じゃあ聞くけど、あなた、この時間好き?」
男「この時間って、、、毎日同じ時間になったらベランダに出て、隣に住む顔も知らない君と話しながらタバコを吸う、この時間?どうだろ、ちゃんと考えたこともないな」
女「ふーん」
女「私もそんな感じかも」
男「この時間を作ることに義務感なんて無いし、だからと言って楽しみにしているわけでもない。もちろん、この時間が退屈だってことでもないよ。良い意味で、あってもなくてもいい時間なんだと思う。というか、そうじゃないとダメなんだと思う。この時間に意味を持たせた瞬間に僕たちも、この時間も変わってしまう」
女「なんだか複雑なようでシンプルね」
男「そうだね」
女「ありがとう、それを聞きたかっただけ」
男「君はどうなの?」
女「あなたとほとんど同じ。言葉にはしづらいの。必要なようで必要じゃないことなんてたくさんあるけど、それをいちいち考えたり、言葉にしたりしないでしょ?」
男「僕はそんなこと考える時間、好きだけどね」
女「例えばどんなこと?」
男「プロジェクター」
女「プロジェクター?」
男「あってもなくてもたいして変わらないもの」
女「プロジェクターが?」
男「僕ね、最近プロジェクターを買ったんだ。映画を大画面で観るために。買ってから毎日のように映画を観てる。確実に僕に有意義な時間を提供してくれている。でも、もし今このプロジェクターを失っても、きっと僕は何も後悔しないし、新しく買い直そうとも思わない。だって大画面になったところで映画の内容は変わらないし、何かが便利になるわけでもない。ただの自己満足なんだ。自分の中で始まって、自分の中で終わるだけ」
女「確かにホームプロジェクターを得ようと失おうとあなたは何も変わらなさそう。でも、大画面で観ることで映画を楽しめるってこと意外に何か変わったことはあるんでしょ?」
男「インスタグラムに投稿することが増えた。それぐらいかな」
女「正直ね。もしかして買った背景にはその目的もあったとか?」
男「正解。実際、ホームプロジェクターなんて無い方が生活はしやすい。ただでさえ狭い部屋をさらに窮屈に感じさせるし、いちいち手間がかかる。良いとこと悪いところを挙げれば、悪いことの方が多いと思う。でも、自分に酔えて、着飾ることができる。オシャレだと思う自分をみんなに発信できる」
女「私は理解できないな。プロジェクターのどこがオシャレなの?」
男「プロジェクター自体はオシャレじゃない。プロジェクターがある部屋というか、その空間が良いんだ。イタリアンのお店とかカフェでも、プロジェクターで映画を放映している店はたくさんあるだろう?きっとこの考えは比較的多数派なんだよ」
女「ファッション化してるってことね」
男「そうだね、僕の中ではそうなってるし、その認識はあながち間違いじゃない」
女「本当にプロジェクターがで映画を観ることが好きな人がかわいそう」
男「仕方ないことなんだと思う。本当にそのものが好きで、こだわりを持っていても本質は誰にもわからない。SNSを通すと特にね」
女「なるほどね。。。なんだかプロジェクターに興味が出てきたわ。プロジェクターを持ってる人にも」
男「そう、よかった。僕の家で観てみる?」
女「フフッ それだけはやめとくわ」
男「そう言うと思った」
ジュ
ガラガラ