Night17.『焼肉のタレはエモい』
ガラガラ
シュッ
フー
男「夏が終わるね」
女「夏が始まるね、とも言ってなかったけど、そうだね」
男「今年の夏はどうだった?」
女「ただ暑いだけで、いつもと変わらないよ。月のエアコン代が他の時期より少し高くなって、洗濯物が減ったぐらいで他はなにも変わらない。あなたは?」
男「それを聞いて安心した。僕も同じ感じだよ。あーでも聞く音楽が変わった」
女「桑田とか?」
男「桑田は四六時中聞くよ。夏っぽい感じの曲というか、なんだろ。夏の夜に彼女とパジャマ姿でコンビニにアイス買いに行くときに聴きたくなる曲というか、そういうの」
女「大学生みたいだね。分かるよそういうの。イタいって分かってるけど自分に酔いたいから無理やり俗にいうエモいってことしたくなる感じ。うわ、エモいな〜って言いたいだけのね」
男「まあ僕たちも大学生だからね」
女「大学生とエモいって気持ち悪い一体感があるよね」
男「どういうこと?」
女「大学生なんてエモいって言っとけば良いみたいな」
男「分からなくもないけど分かるって言っちゃダメな気がする」
女「エモいって概念が流行ったのもここ数年前からだし今の大学生にしか言えないけどね。でもアンニュイな雰囲気とローファイビートとちょっとエッチなことしてればエモいになるでしょ?」
男「あー大学生そういうの好きそう」
女「もうクズ大学生=エモいみたいな風潮ない?」
男「あるね。エモいって言葉は大体のこと物事に付随させることができるし、全部エモいの一括りにできる」
女「バーベキューでなに焼いてどんな料理作っても結局最後に焼肉のタレをぶっかけるからもう焼肉のタレでしかない、みたいな。BBQ=焼肉のタレの法則」
男「言いたいことは分かる。けどその考えは質の低いバーベキューに限るけど」
女「質の高いバーベキューをする大学生なんていないわよ。いたら会ってみたい。絶対一緒にバーベキューしたくないけど」
男「バーベキューでイキるタイプの大学生って酒弱そうだよね」
女「なんとなく分かる」
男「エモいといえばさ、根源はロックのジャンル分け音楽用語らしいよ。ハードコアからの派生でエモーショナルロックっていう」
女「へえ」
男「音楽好きの友達がさ、元々の意味も分からねえでエモいって連発する奴はダサいとか嫌いだーって言ってた。だからそいつはエモいって言葉は絶対使わないんだってさ」
女「いや知らなっ」
男「っていうのをボサノバカヴァーインスト系フィメールラッパーの曲流しながら助手席に眠る彼女乗せて夜の首都高走ってる時に言ってたらしい」
女「エモいな〜」
男「そんな彼氏欲しい?」
女「絶対嫌だ」
ジュッ
ガラガラ