ベランダチルタイム -ショートショート-

ベランダで話す男女2人の会話の妄想

Night15.『中身が無いの最高だね』

ガラガラ

 

シュ

 

フー

 

男「そういえば前から気になってたことがあるんだけどさ」

 

女「ん?」

 

男「タバコ、何吸ってる?銘柄と太さ」

 

女「んーじゃあ、何吸ってると思う?」

 

男「アメスピ。イエローの5mmとか?」

 

女「残念。そんな高いタバコなんて吸えない」

 

男「正解は?」

 

女「ショートホープのメンソール」

 

男「そこはノーマルのショートホープであれよ」

 

女「メンソールが好きなのよ」

 

男「だったらもっとメンソールに強い銘柄あるでしょ」

 

女「タバコにしても、みんなと違うのを吸いたいっていう気持ちがあるの。なかなかいないでしょ?ショートホープのメンソール吸い女って。最初は我慢してたけど、もうこれ以外買う気起きなくなっちゃった。あなたもない?タバコだけに限らず、音楽とか、漫画とか、本とか」

 

男「分からなくもないな。本はそもそも読む人が少ないから、音楽だとインディーズの人とか、まだ世に出てないグループを掘りたくなるのはあるね」

 

女「そういう人に限って、結局一周まわって宇多田ヒカルが良いとか言い出すのよね」

 

男「あいにく宇多田ヒカルはドラマの主題歌の曲ぐらいしか分からないんだよね。っていう、この発言もなんかイキってるって思われそう」

 

女「宇多田ヒカルはそういうレベルまでいっちゃったのよ」

 

男「最近だと、HipHop好きって言いずらくなってきたんだよね」

 

女「どうして?」

 

男「流行りだから?テレビ番組とか、CMとかで多く使われ始めたし、ミーハーみたいに見られそう。ほら、映画化決定!!って帯がついてる本を買いづらいのと同じで、どうしても後追いだと思われる」

 

女「いいことじゃない。それまで興味無かった人も知るようになって、共通の話題で話せるようになるなんて。ミーハーに見られてもいいのよ。好きであることには変わらないし、優劣なんて無い」

 

男「そうなんだけどさ。売れて欲しいけど知られて欲しくないアーティストとかアイドルとかいるじゃん。そんな気持ち」

 

女「HipHop、というかラップはずっと好きだったの?」

 

男「いや、ブームが来る少し前からだけど…」

 

女「どんぐりの背比べね。ミーハーだ、古参だって意地張るのってだいたいその辺の人なんじゃないかなって思うけど」

 

男「たしかにそうかもしれない。本当の古参はファンが増えることを喜ぶし、歓迎してくれそう。知識のマウントを取ってくることもないのかも」

 

女「知識のマウントか、しっくりくるね、それ。けれど、そういう人って、私もそうなんだけど、自分の好きなものをみんなに知って欲しいって気持ちも強いと思う。映画とか本とか音楽とか、人に勧めるの好きだよ」

 

男「そうなんだ。僕はあまり人に言わないかな…」

 

女「でもね、勧めたところで実際にそのモノゴトをちゃんと体験というか、映画でいうと、教えた後にちゃんと観て、感想とか言ってくれる子ってほとんどいないのよね」

 

男「人に勧められたものはなぜかハネないのは僕もそうだから分かるな。自分で見つけた時のほうが、受け取る価値というか、印象が強くなる気がする」

 

女「結局そういうものよね。頭が空っぽのほうが、予備知識が無い方が楽しめるし感動できる。中身が無いのって最高ね」

 

男「ちなみに最近おすすめのアーティストは?」

 

女「Daichi Yamamotoかな。ねえ、あなたってタバコなに吸ってるの?」

 

男「ラッキーストライクだよ」

 

女「強くないの?」

 

男「強いよ。すぐ頭が回る」

 

女「タイヤみたいだな」

 

ジュッ

 

ガラガラ