Night 1.『昼を知らない夜』
毎日0時25分 ベランダ タバコ 5分 隣の部屋 知らない男女
ガラガラ、カチ、フー
男「今日の夜は暖かいね」
女「うん、風は冷たいけど、居心地は良いかも。でも昼のほうがよかったな。気温の数字は寒さを提示してくるけど、日差しがそれを否定してた。1年間に数日だけある、毎日がこんな天気だったら良いのに、ってなる、そんな日だった」
男「分かる気がする。けど今日は一歩も外に出てないや。ずっと家にいたから」
女「そう、、、楽しかった?」
男「楽しいよ、とても。はたから見ればただ暇で、孤独で、時間を無駄にしているように感じると思う。けど僕は楽しい」
女「それならよかった。1人でも楽しいって思えるのはすごく良いことだと思う。何してたの?」
男「昼過ぎに起きて、タバコを吸って、インスタントラーメンを食べて、映画を観て、観ながら寝て、起きてまたタバコを吸って、好きな写真集を見てた」
女「楽しそうね」
男「かわいそうって思った?」
女「少しね。けどその時間には決して一緒になることができないけど、一緒に過ごしてみたいって思った。あなたのことが好きとか、趣味が合うとかってわけでも無いのに。上手く言えないけど、誰かの日常を過ごしてみたくなるの」
男「そう言ってくれるだけで嬉しいよ。ありがとう」
女「いいえ。けど、寂しくなったりはしないの?」
男「寂しくないって言ったら嘘になる。誰かからの誘いは待ってた。けど誘いが来ても断るんだ。たぶん、誰かに誘われるってこと、必要とされるってことを確認できるのが好きなんだと思う」
女「なにそれ。かまって欲しいってこと?」
男「そうだね。かまって欲しいんだと思う。でもみんなそうじゃないかな」
女「理解できなくもないけど、共感もしないかな。けど確かに私も人を誘うのが苦手だから誘われたいかも。断られるのって寂しくなる」
男「じゃあ今日は友達に誘われた?」
女「ううん。今日は1人で出かけてた。最近、茶碗割っちゃったから散歩がてら買いに行ってたの。浅草まで」
男「いい日だね。いいの見つかった?」
女「いや、無かった。そもそも茶碗にこだわって無かったし。いざ買いに行っても満足できるものって見つかんない」
男「じゃあ、買わなかったんだ」
女「うん。でも良い香水見つけたよ。普段香水なんてつけないのに買っちゃった」
男「へえ、どんな香り?」
女「なんて言えばいいんだろう。分かんないけど、田舎で周りの子よりもませてる女の子がこっそり使ってるお母さんの香水、みたいな」
男「いい香りそうだね」
女「実際に私がそうだったからかな。知らない香水なのに懐かしさもあるの」
男「うん、君のことは全く知らないけど、なんとなく分かる気がする」
女「そう?褒めてくれてる?」
男「うん、とてもね」
女「ありがとう。」
男「明日は何かするの?」
女「特に予定は無いし、家でNetflixでも観ようかなって思ってたけど。でも今は、今日買った香水つけてまた外に出ようと思ってる、かな」
男「いいね、けど明日は雨みたいだよ」
女「それでもいいの、雨の香りってなぜか落ち着く。あなたは?明日も誘い待ち?」
男「僕はどうしよう。誰かを遅めのランチに誘ってみることにするよ。外に出たくなってきた。雨の香りも嫌いじゃないし」
女「お気に入りの香水をつけて?」
男「香水はつけないんだ。けど君の話を聞いて、僕も好きな香りに出会いたくなったし、探しに行こうかな」
女「ぜひ、きっといい出会いがある」
男「そういえば、君って田舎育ちだったんだね。どこ?」
女「またいつか思い出した時に教えてあげる。特に面白く無いけど」
男「わかったよ。楽しみにしてる」
女「楽しみにされたら困るな。けど、ありがとう」
男「どういたしまして」
女「じゃあ、おやすみ」
ジュ
ガラガラ