ベランダチルタイム -ショートショート-

ベランダで話す男女2人の会話の妄想

Night13.『リモートのぞき』

ガラガラ

 

シュッ

 

フー

 

男「ねえ」

 

女「なに?」

 

男「いつ大学始まるんだろうね」

 

女「あー確かに。履修登録はしたでしょ?私は週3日で授業数がそ もそも少ないけど、 授業が多い友達はもうオンラインで受けてたよ」

 

男「オンラインは僕も始まってる。そうじゃなくて、 学校に通える日はいつになるんだろうってこと」

 

女「あぁ、そういうことね。うーん、あと1か月以内には通えるよ うになったらいいけど、どうなんだろう」

 

男「僕たちはチャリで通えるからいいけど、 電車通学の人はまだリスクあるし大変そう」

 

女「ね。オンラインの講義ってどんな感じなの?」

 

男「みんなの顔が見れて面白いよ。喫煙所で見たことある人とか、 少しだけ知ってる人とかいて。 それに教授も含めてその場全員の顔を見て講義を受けるってことは 今までなかったから景色が新鮮」

 

女「え?顔出すのって教授だけじゃないの?」

 

男「どうなんだろう。何も言われてないから、 みんな顔出してるよ。そもそも人数が少ないし、 あまりみんな考えてないのかも」

 

女「でもそれって自分も誰かに見られてるってことでしょ? 私は嫌だな」

 

男「そう? でも自分の姿は映さないで人の姿だけ見るってちょっとズルさがな い?」

 

女「誰もズルだなんて思わないわよ。まぁ、 少し気持ち悪い感はあるけど」

 

男「のぞきみたいなものじゃん。女子風呂をのぞくのと同じ。 例えで言えばね。合法ののぞき」

 

女「それをのぞきっていうなら、 あなたのは全裸で女子風呂に突っ込んでいってるようなものよ?」

 

男「たしかに。それはなんとも言えないね」

 

女「自分も見られるってなったら、特に女の子とか大変そう。 お化粧したり髪の毛セットしたり着替えたり。家の中なのに」

 

男「 逆にあえてパジャマとスッピン見せてたら男的には嬉しいかも」

 

女「 そんなことするのはサバサバ系女子気取ってる子かよっぽど自分に 絶対的な自信がある子だけよ。計算してんのよそれも。 それ用のパジャマ買ったりして」

 

男「計算だとしてもこっちとしては得しかないからいいんだよ。 あざとい子は同姓には嫌われても異性には好かれるロジックと同じ 」

 

女「ロジックって言いたいだけ」

 

男「でもそういう子はまだ見たこと無いな」

 

女「そりゃあね。 だってあれって一人だけを大画面で見ることもできるんでしょ? 絶対好きな子だけしか見てない人もいるわよきっと。 男女問わずね」

 

男「僕はそんなことしてないよ」

 

女「別に疑ってなんかないわよ」

 

男「でもそれ楽しそう」

 

女「でもよく考えたら、 みんなの顔を見れてないと絶対途中で飽きて寝ちゃいそう。 ただのオンライン講義なんてよっぽど意識高くて集中力続かないと 厳しいわよ。 生徒が寝るか途中退出するぐらいだったらみんなの顔を見れるよう にしたほうが良さそうね。 見張られてるって意識を持つことは大事」

 

男「いま流行りのリモート飲み会も、 みんなの顔が見れていいよね。飲み屋とかだと、 横の人や少し遠いところにいる人の顔って見れないじゃん。 自分が話してるときにみんなの顔が見れるのはいい意味でも悪い意 味でもいろいろ知れて面白い」

 

女「自分の話に興味があるかないか分かるね。 私もこの前やったけど、 人が多すぎると収集つかなくなってグダッちゃった。 機器を通しちゃうとスクランブルな会話ができないから不便よね。 一人だけに話しかけたいのに、それができない。 リモートだと会話を細分化できないから、 飲み会特有の面白さが半減しちゃう」

 

男「そういう時はラインすればいいんだよ」

 

女「リモート飲みをしている最中に?」

 

男「そうそう。このリモートから抜け出して2人でリモートしない ?みたいな」

 

女「気持ち悪いし、それかなり自信と勇気が無いとできないわよ。 実際に同じ場にいるからこそ感じるあの波長が合ってる感覚が画面 越しに通じ合うなんて無理。 目が合ってるかどうかも分からないのに」

 

男「そっかーむずかしいか」

 

女「もしかして本当にやろうとしてた?」

 

男「TPOによるかな」

 

女「覚えたての英語三文字表記を使いたがるタイプね。中1みたい 」

 

男「話を戻すけど、僕は君の顔も名前も知らないし、 何学部かも分からないけど。 いつか同じオンライン授業受けるかもしれないね」

 

女「まあね。だからって答え合わせなんて絶対しないわよ。 私はあなたの存在を知りたくないし、知られたくもない。 こうやってベランダに出てタバコを吸う5分間だけ話す関係のまま でいい」

 

男「お互いを知ったときにはこの時間が無くなるね」

 

女「そういうこと」

 

男「じゃあリモート飲みも無し?お互いが見えないように、 通話だけで」

 

女「今まさに似たようなことやってるじゃない」

 

男「リモートチルか」

 

女「副流煙防止にはもってこいね」

 

ジュッ

 

ガラガラ