ベランダチルタイム -ショートショート-

ベランダで話す男女2人の会話の妄想

Night11.『密=サイケデリック』

ガラガラ

 

シュッ

 

フー

 

女「ゴールデンウィークどうだった?」

 

男「森を作ったよ」

 

女「あぁ、ゲームのね」

 

男「サイケデリックな森ができた」

 

女「サイケデリックってなに?って言わせたいだけでしょ」

 

男「サイケデリックサイケデリックだから仕方ない。サイケデリックとしか言えないんだ。日本語で言うなら、幻覚かな」

 

女「幻覚見たことあるの?」

 

男「もちろんないよ」

 

女「じゃあどうやって作るの?そのサイケデリックな森って」

 

男「サイケデリックって画像検索してきて、出てきた物のイメージかな。そもそもサイケデリックを明確に理解してイメージできる人なんていないよきっと。幻覚は幻覚で、それは幻覚を見ている時にしか表せないはずだから。幻覚って言葉の通りそれは幻で、明確にはできない」

 

女「宗教的な言い方ね。この世のすべてに存在するものは自分も含めて因縁によって生まれたもので、実体は無い、、、的な」

 

男「悟りってやつだね」

 

女「よく分かんないけど」

 

男「森は原色ばっかり使ってできた感じ」

 

女「Franz K Endoの作品みたいな?」

 

男「うん、それに近い。だってせっかく自分で森を作れるんだから、現実で完成できそうなモノを作ってもつまんない。バーチャルだからこそできるものにしないと。ゲームでやる意味がない」

 

女「そう?実際にこんな森があったら〜とか、こんな森に住みたい〜とか、そんな感情で作る人の方が多いと思うけど。実際にインスタで目につく森はそんな感じばっかり」

 

男「できもしない、ただわずかな理想と可能性があるモノを作ろうとすると現実とのギャップに嫌になりそう。6畳ワンルームの部屋で、汚れた換気扇の下でタバコを吸いながら綺麗な森を作るなんて」

 

女「そこまで深入りするゲームじゃないと思うけど。人生ゲームをやって、自分と全く違う成功を収めちゃって、劣等感を感じる、みたいなことでしょ」

 

男「確かにそれは感じないな」

 

女「でしょ?だから理想を形にするゲームなのよ、森を作るのって」

 

男「サイケはタブー?」

 

女「サイケって略し方なんか鼻につくけど・・・タブーじゃないよ、どんな森をどんな感情で作ろうとも自由だもの」

 

男「サイケな森。気にならない?」

 

女「18年ぶりに出たハイスタの新譜ぐらい気になってる」

 

男「だよね、でもまだ途中なんだ。どうしても木目の物が邪魔をしてしまう」

 

女「ていうか、どうぶつの森サイケデリックなんて可能なの?元からデザインとか決まってる家具と住人はどうしようもできないじゃない」

 

男「そう、そこが問題なんだよ」

 

女「どうするの?」

 

男「幻覚を見させるしかない」

 

女「どうやって?」

 

男「YouTubeサイケデリックって調べたら覚醒剤使用時に見るような幻覚が動画で再現されてるものがあったから、それを見てもらった後に僕の森に来ればいいよ」

 

女「そこまでする価値、ある?」

 

男「無いね。けど、見てみたいと思わない?」

 

女「そこまではしたくないな。朝方の池袋駅で嘔吐物つつくハトぐらい見たくない」

 

男「終電前の池袋駅でベタベタしてるメンヘラカップルぐらい見たくなるように頑張るね」

 

女「そのカップルこそがリアルのサイケデリック

 

男「恋愛の幻覚」

 

女「密は避けなきゃね。恋も同じ。近すぎるとリアルじゃない」

 

男「避ける密すら無いな」

 

女「可哀想。私もだけど」

 

ジュッ

 

ガラガラ