ベランダチルタイム -ショートショート-

ベランダで話す男女2人の会話の妄想

Night18.『染み付いたシャツ』

ガラガラ

 

シュッ

 

フー

 

女「タバコを吸う女の子ってさ、やっぱり男子ウケ悪いのかな」

 

男「まあ、場合によってはね」

 

女「あなたはどう?」

 

男「自分が吸うし、、、それはあんまり関係ないんだろうけど、僕は特に気にしないよ。コーヒーを飲むとか、フリスクを持ち歩いているだとか、そういうのと変わらないと思う。なんで急にそんなこと気になったの?」

 

女「最近気になる人ができたんだけど、どうやらタバコを吸う女の子だけは嫌だとか言ってるみたいでさ。それも女友達っていう関係の子が吸うのは問題ないんだけど、彼女ってなると絶対嫌なんだってさ。そういうものなの?」

 

男「普段身につけてる物、例えばアクセサリーだとか服だとかが汚れてたり壊れてたりしたら、家の中でだったらいいけど外に出る時は身につけたくないだろ?」

 

女「もちろん。見栄えが悪いし、そういう女の子だって思われたくないもの」

 

男「つまりそういうことなんだと思うよ」

 

女「恋人はアクセサリー?」

 

男「かなり悪く例えるとね」

 

女「じゃあ彼は、タバコを吸う女の子を彼女として横に並んで歩くことはトマトソースが染み付いたホワイトシャツを着て外を歩くことと同じだと考えているの?」

 

男「否定はできないと思う。もしそうだとしたらタバコやめる?」

 

女「やめるわけないじゃない。そこまで自分を変えてまで付き合いたいだとか横を歩きたいなんて微塵も思わないもの」

 

男「多分だけど、男が彼女に求めるのは中身より見た目だと思う。タバコもそうだけど、ファッションはもちろん、ピアスだとかヘアカラーだとか、自分と相手の身長差だとか。稀なケースだとタトゥーとかね。自分の中に最低限のチェック項目があって、そこをクリアしないと彼女っていう存在にしようとはしないよ。付き合うとしても友達に紹介するとかSNSに載せるとかしない」

 

女「まさにアクセサリーね。それは好みとは違うの?」

 

男「好みが加点ポイントだとすると、その最低限をクリアしないと加点も減点もないんだよ」

 

女「めんどくさいわね」

 

男「男が全員そういうわけじゃないけどね。ただSNSの流行でその風潮は顕著になってると思うよ。彼女可愛いねって一言は男にとっては大きなステータスになるし自己肯定感にもなる」

 

女「あんなのいくらでも加工できちゃうのにね。しょうもない。」

 

男「まあ、恋人がいない人が言ってもどうにもならないんだけどね。自分がその当事者になることだっていくらでも考えられるし」

 

女「あなたはあるの?彼女に求める最低限チェックポイントとやら」

 

男「見た目的な問題だと、似合ってればなんでもいいかな。タバコ吸ってても髪が何色でもピアスばちばちでもタトゥーが入ってても。でも似合ってなかったりイケてるって思えなかったら嫌だな。完全な自己基準だけどね」

 

女「それ、いちばん性悪だしいちばんめんどくさいよ」

 

男「君は全く気に入ってないデザインの服を買う?」

 

女「絶対買わない」

 

男「つまりそういうこと」

 

女「納得しちゃった」

 

男「こんなこと考えてるから恋人ができないんだと思う」

 

女「私も人のこと言えないからなぁ。恋人はパジャマだって考えればいいんじゃない?」

 

男「パジャマ?」

 

女「パジャマは着心地の良さが大事、つまり恋人は居心地の良さが大事。見た目は二の次にして、性格とか相性を重視しなきゃ。見た目だけで分別してちゃキリないわよ」

 

男「君は全く美味しそうに見えない料理を食べたいと思う?」

 

女「思わない。もしかして、そういうこと?見た目が好みじゃないと中身を知ろうともしないって」

 

男「そういうことだね。よくさ、自分より年上がいいだとか年下じゃないと嫌だとか言う人いない?」

 

女「掃いて捨てるほどいる。実際私は、というか女の子は大体そうなんだろうけど年上の方がいいな」

 

男「じゃあ、見た目がとてもタイプで、性格も合うし一緒にいて楽しいし絶対付き合いたいって人がいたとしよう。大好きになってから、相手が実は年下だって分かった途端に幻滅する?」

 

女「しないかな」

 

男「そういうこと」

 

女「それは異議あり。だって年の問題なんて絶対そうじゃないといけないってわけじゃないもの。ただの理想なだけで。理想が壊れたからってそれだけで簡単に人を嫌いになんてならないわよ」

 

男「そういうことか・・・」

 

女「そう簡単に人を好きになることもなければ嫌いになることもないわよ。私はね」

 

男「タバコを吸う女は嫌いって言ってた男は?」

 

女「タバコを吸う女を好きにさせてみる」

 

男「応援してる」

 

女「ありがと」

 

ジュッ

 

ガラガラ

Night17.『焼肉のタレはエモい』

ガラガラ

 

シュッ

 

フー

 

男「夏が終わるね」

 

女「夏が始まるね、とも言ってなかったけど、そうだね」

 

男「今年の夏はどうだった?」

 

女「ただ暑いだけで、いつもと変わらないよ。月のエアコン代が他の時期より少し高くなって、洗濯物が減ったぐらいで他はなにも変わらない。あなたは?」

 

男「それを聞いて安心した。僕も同じ感じだよ。あーでも聞く音楽が変わった」

 

女「桑田とか?」

 

男「桑田は四六時中聞くよ。夏っぽい感じの曲というか、なんだろ。夏の夜に彼女とパジャマ姿でコンビニにアイス買いに行くときに聴きたくなる曲というか、そういうの」

 

女「大学生みたいだね。分かるよそういうの。イタいって分かってるけど自分に酔いたいから無理やり俗にいうエモいってことしたくなる感じ。うわ、エモいな〜って言いたいだけのね」

 

男「まあ僕たちも大学生だからね」

 

女「大学生とエモいって気持ち悪い一体感があるよね」

 

男「どういうこと?」

 

女「大学生なんてエモいって言っとけば良いみたいな」

 

男「分からなくもないけど分かるって言っちゃダメな気がする」

 

女「エモいって概念が流行ったのもここ数年前からだし今の大学生にしか言えないけどね。でもアンニュイな雰囲気とローファイビートとちょっとエッチなことしてればエモいになるでしょ?」

 

男「あー大学生そういうの好きそう」

 

女「もうクズ大学生=エモいみたいな風潮ない?」

 

男「あるね。エモいって言葉は大体のこと物事に付随させることができるし、全部エモいの一括りにできる」

 

女「バーベキューでなに焼いてどんな料理作っても結局最後に焼肉のタレをぶっかけるからもう焼肉のタレでしかない、みたいな。BBQ=焼肉のタレの法則」

 

男「言いたいことは分かる。けどその考えは質の低いバーベキューに限るけど」

 

女「質の高いバーベキューをする大学生なんていないわよ。いたら会ってみたい。絶対一緒にバーベキューしたくないけど」

 

男「バーベキューでイキるタイプの大学生って酒弱そうだよね」

 

女「なんとなく分かる」

 

男「エモいといえばさ、根源はロックのジャンル分け音楽用語らしいよ。ハードコアからの派生でエモーショナルロックっていう」

 

女「へえ」

 

男「音楽好きの友達がさ、元々の意味も分からねえでエモいって連発する奴はダサいとか嫌いだーって言ってた。だからそいつはエモいって言葉は絶対使わないんだってさ」

 

女「いや知らなっ」

 

男「っていうのをボサノバカヴァーインスト系フィメールラッパーの曲流しながら助手席に眠る彼女乗せて夜の首都高走ってる時に言ってたらしい」

 

女「エモいな〜」

 

男「そんな彼氏欲しい?」

 

女「絶対嫌だ」

 

ジュッ

 

ガラガラ

Night16.『結局は翔太より龍平より優作』

ガラガラ

 

シュッ

 

フー

 

女「ねえ、松田龍平か翔太だったらどっち派?」

 

男「それは簡単な質問だね。もちろん翔太だよ」

 

女「やっぱりか」

 

男「なにがやっぱりなの?」

 

女「いや、この前スタバに行ったらさ、いまだに松田翔太ぶった格好してる人がいたんだよね。だからなんとなくそれを言いたくて、質問した。ごめん、龍平か翔太かなんて実際のところ全く興味ない」

 

男「言いたいことがあるけどストレートに言うのが躊躇われるからって、質問から会話に入る手法か。たまにやっちゃうよね。自分の恋愛事情を話したいが為に、まず相手に最近どう?とか聞いたりね」

 

女「わざわざそこまで深掘りしなくてもいいのよ。間違ってないけどさ」

 

男「それで、松田翔太がなに?」

 

女「さっき言った通りよ。刈り上げて前髪センター分けでリングのピアスしてTシャツをスキニーパンツにインしてる、松田翔太の雑兵のこと。まだいるんだなーって思って。とっくに絶滅したもんだと思ってた」

 

男「マンモスですら冷凍保存されてるぐらいだよ。そう簡単に物事は絶滅しない。で、その松田翔太の雑兵が気に食わないの?」

 

女「そんなことないわよ。松田翔太は好きだし、、、まあ龍平の方が好きだけど。そういう着こなしも嫌いじゃない。だけどさ、彼らってなんでそんなことするんだろうね」

 

男「かっこいい人の着こなしをマネすること?」

 

女「そう」

 

男「そりゃ、模範解答がそこにあるからだよ。確かに「その人」がやるからこそ成立するファッションもあると思うけど、そのスタイルが「かっこいい」ものとされているんだ。ていうか、俳優とかアイドルとか、インフルエンサーがそういうものにしちゃってるんだよ。マネをしたいっていう思いは本当のところはそこまで大きく無くて、ただ流行りに乗ってるだけ。響きは良くないかもだけど、ファッションにおいては流行りに乗るっていうのはとても大事なことなんじゃないかな」

 

女「ヒップホップも流行に乗ることが大事って、たしか誰かも言ってたな」

 

男「なんで急にヒップホップ?で、誰?」

 

女「SOUL'd OUTかな」

 

男「ごめん、分からない」

 

女「でね、今日見たその雑兵はね、面白くないことにすごい似合ってたのよ、その格好が。松田でも翔太でも無いくせにね。だからマネから入って、もうすでに自分のものにしちゃってるんだよね。マネというより、オマージュっていうか。まあ、ボルビック片手に持ってことは本気で気に食わないんだけど」

 

男「ボルビックに何か嫌な思い出でもあるの?僕は正直ファッションについて詳しい分けじゃないし、こだわりがあるわけでもないから分からないけど、服が好きな人に憧れるよ。みんなカッコいい。服にこだわるってこと自体、もうすでにカッコいいんだよ」

 

女「結局ファッションってなんだろうね。お洒落の定義ってなに?ニューヨークのネタでさ、「お前はお洒落じゃなくてただ服が好きなだけ」ってのがあってさ、あー確かにいるなーって思ったんだけど、じゃあ、お洒落な人ってなにが違うんだろうね」

 

男「それはお洒落な人に聞くしか分からないよ」

 

女「じゃあ、お洒落な人はどんな人?」

 

男「難しいね。なぞなぞ?」

 

女「そうじゃなくてさ。お洒落な人って、結局は第三者の見解に結論が帰還するもんなのかなって。どれだけ自信満々でお洒落しても、それを見た人がどう思うかでしょ?しかもその答えも、誰が判断するかによって変わるし。難しいわよ。なぞなぞよ。だって私、世間一般ではファッショニスタとして絶大な指示を得てる菅田将暉のファッションすごい嫌いだもん」

 

男「すごい嫌いなファッションなんてあるの?それはそれで珍しいと思うけど」

 

女「じゃあさ、今2人だけでお洒落の定義決めましょうよ」

 

男「いいね、そうすると今後こういう話をするときにベクトルを合わせやすい」

 

女「私がお洒落だなーって思う人は、洗練されてない感じがある人かな。生活感が見えるというか雑さがあるというか、作り物じゃない感じ。分かる?」

 

男「例えば誰?」

 

女「リリーフランキーとか」

 

男「ごめん、それはちょっと理解できないな」

 

女「じゃあ、あなたは?」

 

男「君の言う、洗練されて作られた感じがないっていうのは分かる。だけど、やっぱり僕は洗練してる人の方がこだわりがあって、自分をしっかり理解して作り上げてる感じがしてお洒落だなーって思うな」

 

女「例えば誰?」

 

男「リリーフランキーかな」

 

女「リリーフランキーの名前出してスベるなんて、あなた時代が時代なら切腹ものよ」

 

男「ごめんなさい」

 

ジュッ

 

ガラガラ

Night15.『中身が無いの最高だね』

ガラガラ

 

シュ

 

フー

 

男「そういえば前から気になってたことがあるんだけどさ」

 

女「ん?」

 

男「タバコ、何吸ってる?銘柄と太さ」

 

女「んーじゃあ、何吸ってると思う?」

 

男「アメスピ。イエローの5mmとか?」

 

女「残念。そんな高いタバコなんて吸えない」

 

男「正解は?」

 

女「ショートホープのメンソール」

 

男「そこはノーマルのショートホープであれよ」

 

女「メンソールが好きなのよ」

 

男「だったらもっとメンソールに強い銘柄あるでしょ」

 

女「タバコにしても、みんなと違うのを吸いたいっていう気持ちがあるの。なかなかいないでしょ?ショートホープのメンソール吸い女って。最初は我慢してたけど、もうこれ以外買う気起きなくなっちゃった。あなたもない?タバコだけに限らず、音楽とか、漫画とか、本とか」

 

男「分からなくもないな。本はそもそも読む人が少ないから、音楽だとインディーズの人とか、まだ世に出てないグループを掘りたくなるのはあるね」

 

女「そういう人に限って、結局一周まわって宇多田ヒカルが良いとか言い出すのよね」

 

男「あいにく宇多田ヒカルはドラマの主題歌の曲ぐらいしか分からないんだよね。っていう、この発言もなんかイキってるって思われそう」

 

女「宇多田ヒカルはそういうレベルまでいっちゃったのよ」

 

男「最近だと、HipHop好きって言いずらくなってきたんだよね」

 

女「どうして?」

 

男「流行りだから?テレビ番組とか、CMとかで多く使われ始めたし、ミーハーみたいに見られそう。ほら、映画化決定!!って帯がついてる本を買いづらいのと同じで、どうしても後追いだと思われる」

 

女「いいことじゃない。それまで興味無かった人も知るようになって、共通の話題で話せるようになるなんて。ミーハーに見られてもいいのよ。好きであることには変わらないし、優劣なんて無い」

 

男「そうなんだけどさ。売れて欲しいけど知られて欲しくないアーティストとかアイドルとかいるじゃん。そんな気持ち」

 

女「HipHop、というかラップはずっと好きだったの?」

 

男「いや、ブームが来る少し前からだけど…」

 

女「どんぐりの背比べね。ミーハーだ、古参だって意地張るのってだいたいその辺の人なんじゃないかなって思うけど」

 

男「たしかにそうかもしれない。本当の古参はファンが増えることを喜ぶし、歓迎してくれそう。知識のマウントを取ってくることもないのかも」

 

女「知識のマウントか、しっくりくるね、それ。けれど、そういう人って、私もそうなんだけど、自分の好きなものをみんなに知って欲しいって気持ちも強いと思う。映画とか本とか音楽とか、人に勧めるの好きだよ」

 

男「そうなんだ。僕はあまり人に言わないかな…」

 

女「でもね、勧めたところで実際にそのモノゴトをちゃんと体験というか、映画でいうと、教えた後にちゃんと観て、感想とか言ってくれる子ってほとんどいないのよね」

 

男「人に勧められたものはなぜかハネないのは僕もそうだから分かるな。自分で見つけた時のほうが、受け取る価値というか、印象が強くなる気がする」

 

女「結局そういうものよね。頭が空っぽのほうが、予備知識が無い方が楽しめるし感動できる。中身が無いのって最高ね」

 

男「ちなみに最近おすすめのアーティストは?」

 

女「Daichi Yamamotoかな。ねえ、あなたってタバコなに吸ってるの?」

 

男「ラッキーストライクだよ」

 

女「強くないの?」

 

男「強いよ。すぐ頭が回る」

 

女「タイヤみたいだな」

 

ジュッ

 

ガラガラ

Night14.『心の広さは我慢強さ』

ガラガラ

 

シュッ

 

フー

 

女「究極の2択問題って好き?」

 

男「 あー友達同士で暇なときとか居酒屋でふとした時にそういう問題出 すくだりってあるよね。好きか嫌いかなんて考えたこと無いけど、 たぶん好きだよ」

 

女「そうそう。例えば、『付き合うなら広瀬すず広瀬アリスか』 みたいな。あれってさ、 どっちを選択しても相手に敬意を表する必要がある2択にしないと ダメじゃん?」

 

男「難しい言い方だけど、、、まあ、どっちかを選んでも、 選ばなかった方もいいよねってなるべきだね」

 

女「そう。天秤に乗せられた両者を称えるべきで、 優劣をつけるべきじゃない。数人で究極の2択問題をして、たとえ 1人しか片方の選択をしなかったとしても、 馬鹿にしちゃいけないもの」

 

男「うん、分かるよ。それがどうしたの?」

 

女「人生って全て2択だっていう言葉を聞いてさ、なんとなく2択 問題を思い出した」

 

男「ほう、つまり?」

 

女「人生において誰かがどういう選択をしようと、 それがたとえ間違ってるって自分で感じることだろうと、 咎めたり、仲間外れにすることっていけないのかなって。 その人の人生だしその人の考えとかバックボーンがあっての選択だ からさ。『spotifyにするかAppleMusicにするか 』なんて単純な2択にも。その選択に至るまでは自分でも意識出来ない何かしらの理由が含まれてると思うの」

 

男「大多数の人と少し外れた違うレールに乗ることを悪だとか、 社会不適合者だとかとする風習は確かにあるね。かといって、 敷かれたレールに沿ってるだけの人生を上から目線で見下す人もい る。自由な生き方に憧れつつも、 そういう自分の憧れの人生を歩んでる人には失敗を望んだりもするし。イタいとかサブいとか、微かな嫉妬をそんな言葉でまとめようとする 」

 

女「そう。隣の芝生は青く見えるし、赤く染めたくもなる」

 

男「歌詞みたいだね」

 

女「GEZANとかが歌いそう」

 

男「MOROHAもありえそうだね」

 

女「まあそんなことはどうでもよくてさ」

 

男「つまり言いたいことは?」

 

女「人生における選択って難しいなってことかな。自分自身はもちろん、他人の選択でも。干渉するのは良くないこともあるけど、やっぱり友達とか親しい人の人生は気になるもの」

 

男「もし僕が、大学を卒業したら外国にバックパッカーしに行くって言ったら、どうする?」

 

女「頑張ってね、応援してる。って言うかな。もちろん、あなたのその意思が固いことが前提でね。バックパッカーしようか迷ってるって感じなら、正直何も言えない。背中を押すことも後ろ髪を引くこともできない。だけど、どっちの選択をしても幸せになれることを願ってる」

 

男「なるほど。そう言ってくれると気が楽になるね。変に期待されても、失敗するからやめた方がいいって止められても、納得はしないと思う」

 

女「自分を低く見積もって、自分に対する期待値を下げれば、なんでもできるものよ。YouTubeにしてもブログにしても歌を出すにしても、ファッションをインスタに投稿するにしてもなんでもね。けど自信を持つことは大事」

 

男「バカにされたりするのは怖くない?」

 

女「バカにしてくる人はだいたい何もしてない人。何かしてる人に対する嫉妬の気持ちは少なからず1%は入ってるの。私はそう考えるようにしてる」

 

男「心が広いんだね」

 

女「我慢が上手いだけ」

 

ジュッ

 

ガラガラ

Night13.『リモートのぞき』

ガラガラ

 

シュッ

 

フー

 

男「ねえ」

 

女「なに?」

 

男「いつ大学始まるんだろうね」

 

女「あー確かに。履修登録はしたでしょ?私は週3日で授業数がそ もそも少ないけど、 授業が多い友達はもうオンラインで受けてたよ」

 

男「オンラインは僕も始まってる。そうじゃなくて、 学校に通える日はいつになるんだろうってこと」

 

女「あぁ、そういうことね。うーん、あと1か月以内には通えるよ うになったらいいけど、どうなんだろう」

 

男「僕たちはチャリで通えるからいいけど、 電車通学の人はまだリスクあるし大変そう」

 

女「ね。オンラインの講義ってどんな感じなの?」

 

男「みんなの顔が見れて面白いよ。喫煙所で見たことある人とか、 少しだけ知ってる人とかいて。 それに教授も含めてその場全員の顔を見て講義を受けるってことは 今までなかったから景色が新鮮」

 

女「え?顔出すのって教授だけじゃないの?」

 

男「どうなんだろう。何も言われてないから、 みんな顔出してるよ。そもそも人数が少ないし、 あまりみんな考えてないのかも」

 

女「でもそれって自分も誰かに見られてるってことでしょ? 私は嫌だな」

 

男「そう? でも自分の姿は映さないで人の姿だけ見るってちょっとズルさがな い?」

 

女「誰もズルだなんて思わないわよ。まぁ、 少し気持ち悪い感はあるけど」

 

男「のぞきみたいなものじゃん。女子風呂をのぞくのと同じ。 例えで言えばね。合法ののぞき」

 

女「それをのぞきっていうなら、 あなたのは全裸で女子風呂に突っ込んでいってるようなものよ?」

 

男「たしかに。それはなんとも言えないね」

 

女「自分も見られるってなったら、特に女の子とか大変そう。 お化粧したり髪の毛セットしたり着替えたり。家の中なのに」

 

男「 逆にあえてパジャマとスッピン見せてたら男的には嬉しいかも」

 

女「 そんなことするのはサバサバ系女子気取ってる子かよっぽど自分に 絶対的な自信がある子だけよ。計算してんのよそれも。 それ用のパジャマ買ったりして」

 

男「計算だとしてもこっちとしては得しかないからいいんだよ。 あざとい子は同姓には嫌われても異性には好かれるロジックと同じ 」

 

女「ロジックって言いたいだけ」

 

男「でもそういう子はまだ見たこと無いな」

 

女「そりゃあね。 だってあれって一人だけを大画面で見ることもできるんでしょ? 絶対好きな子だけしか見てない人もいるわよきっと。 男女問わずね」

 

男「僕はそんなことしてないよ」

 

女「別に疑ってなんかないわよ」

 

男「でもそれ楽しそう」

 

女「でもよく考えたら、 みんなの顔を見れてないと絶対途中で飽きて寝ちゃいそう。 ただのオンライン講義なんてよっぽど意識高くて集中力続かないと 厳しいわよ。 生徒が寝るか途中退出するぐらいだったらみんなの顔を見れるよう にしたほうが良さそうね。 見張られてるって意識を持つことは大事」

 

男「いま流行りのリモート飲み会も、 みんなの顔が見れていいよね。飲み屋とかだと、 横の人や少し遠いところにいる人の顔って見れないじゃん。 自分が話してるときにみんなの顔が見れるのはいい意味でも悪い意 味でもいろいろ知れて面白い」

 

女「自分の話に興味があるかないか分かるね。 私もこの前やったけど、 人が多すぎると収集つかなくなってグダッちゃった。 機器を通しちゃうとスクランブルな会話ができないから不便よね。 一人だけに話しかけたいのに、それができない。 リモートだと会話を細分化できないから、 飲み会特有の面白さが半減しちゃう」

 

男「そういう時はラインすればいいんだよ」

 

女「リモート飲みをしている最中に?」

 

男「そうそう。このリモートから抜け出して2人でリモートしない ?みたいな」

 

女「気持ち悪いし、それかなり自信と勇気が無いとできないわよ。 実際に同じ場にいるからこそ感じるあの波長が合ってる感覚が画面 越しに通じ合うなんて無理。 目が合ってるかどうかも分からないのに」

 

男「そっかーむずかしいか」

 

女「もしかして本当にやろうとしてた?」

 

男「TPOによるかな」

 

女「覚えたての英語三文字表記を使いたがるタイプね。中1みたい 」

 

男「話を戻すけど、僕は君の顔も名前も知らないし、 何学部かも分からないけど。 いつか同じオンライン授業受けるかもしれないね」

 

女「まあね。だからって答え合わせなんて絶対しないわよ。 私はあなたの存在を知りたくないし、知られたくもない。 こうやってベランダに出てタバコを吸う5分間だけ話す関係のまま でいい」

 

男「お互いを知ったときにはこの時間が無くなるね」

 

女「そういうこと」

 

男「じゃあリモート飲みも無し?お互いが見えないように、 通話だけで」

 

女「今まさに似たようなことやってるじゃない」

 

男「リモートチルか」

 

女「副流煙防止にはもってこいね」

 

ジュッ

 

ガラガラ

Night12.『ポジティブ占い』

ガラガラ

 

シュッ

 

フー

 

女「ねえ、占いって信じる?」

 

男「もちろん。結構好きだよ。けど、 悪いことは鵜呑みにしないで良いことだけ信じるようにしてるかも 」

 

女「そうなんだ。私と真逆だ。 良いことは信じないけど悪いことはとことん考えすぎちゃう」

 

男「へえ、なんで? 良いことだけ信じてればハッピーな気分になれるのに、 なんであえて嫌な思いしかしないようにするの?」

 

女「良いことだけを信じて、 現実でその理想が裏切られることが怖いから」

 

男「なるほど。期待しすぎたくないってことか」

 

女「逆に、 悪いことが起こるんだーって思ってたのに全然へっちゃらだった時 の方が救われた気がしない?プラスがゼロになるより、 マイナスがゼロになったほうがいじゃん」

 

男「でもそれは占いが外れた時だろう? 嫌なことが起こるんだーって思って、 本当に現実で起きたらそれはそれでつらくない?」

 

女「もちろん辛い。けど辛さよりも、うわ、 本当に占いあたってるじゃん! っていう驚きが勝つかもしれないし、占いのせいにできる。 もしかしたら、 何かしらの対策を立てて嫌な出来ことを回避できるかも」

 

男「良いことだけを信じるのってあんまりよくないのかな? プラスがゼロになるだけだし、 占いが外れたっていう何とも言えない喪失感がありそう」

 

女「なんで良いことしか鵜呑みにしないの?」

 

男「そりゃあ、そっちの方が気分が上がるし、 なにより占い自体を楽しめるからだよ。 良いことを聞きたいから占いをしてもらうし。おかしいかな?」

 

女「 良いことしか信じないって人は元がポジティブ思考なのよきっと。 だから羨ましい。 イメージするのとしないので結果は変わるってよく言うじゃない? 筋トレとかでさ。それと同じように、 良いことが起きるって考えてる人はそれ相応の出来事が起きると思う。それに、 どんなに小さいことでもそれが良いことだって感じて、喜べる。 そしたら行動だって変わる。だから良いことがないか、 どんなことが自分にとって幸せな事かって考えるだけでも、 それはとっても良いこと。私には難しいこと」

 

男「幸せな人かどうかは、 何が幸せか気づくかどうかで決まるって言うしね。 気づく力が大切なんだね」

 

女「誰が言ってたの?」

 

男「確か早口メンタリストがユーチューブ動画で言ってた」

 

女「君、そういうの好きそうね」

 

男「入れ知恵をひけらかすのが好き」

 

女「そういう人っているよね。けど魅力があっていいと思う」

 

男「ありがとう」

 

・・・・・・・・・・

 

女「星座なに?」

 

男「アロマディフューザー

 

女「つまんないから正直に教えて」

 

男「おとめ座

 

女「正直に答えた方が面白いやつじゃん」

 

男「君は?」

 

女「この流れで答えるの絶対嫌なんだけど。私はてんびん座」

 

男「めっちゃいいじゃん」

 

女「そう?なにが?」

 

男「理由はないけど。けどそういわれた方がなんかいいでしょ?」

 

女「言ってくれる人によるかな」

 

男「 人によって態度を変えるのはよくないって小学生の時に教わった」

 

女「人によって態度を変える力が無いとダメだって、 年齢を重ねるうちに気づいたの」

 

男「たしかに」

 

女「そうでなきゃつまんない人になっちゃう」

 

男「かもね」

 

女「ちなみにおとめ座とてんびん座って相性とても良いらしいよ」

 

男「本当?なんで?」

 

女「わかんない。適当。でも、そう考えた方がいいんでしょう?」

 

男「そうだね。 好きな相手に酔うよりも恋をしている自分に酔うっていう考え方と 同じ」

 

女「ごめん、わかんない」

 

男「そんなに好きじゃない子でも、 自分のことが好きって噂が耳に入った途端に急にその子のことが気 になって、いつのまにか好きになるってことない?」

 

女「分からなくもない」

 

男「そういうこと。なぜか?っていう理由より、 思い込みとかが先行してそうなっちゃうんだよ。だから、 相性がいいって何の根拠もないのにそう思ってるだけでも、 本当に相性が良くなる。良くなるというか、 そう錯覚してしまうと思う」

 

女「ごめん、やっぱりよく分からない」

 

男「 入れ知恵をなんの仕込みもしないまま料理して出したらダメだね」

 

女「勉強したね」

 

男「まとめると、思い込みの力は大事ってこと」

 

女「なるほどね」

 

男「じゃあ、僕は君と、 というか君の星座と相性が良いって思い込んでもいい?」

 

女「そんなに嬉しくないからそれはちょっとやめてほしいかも」

 

男「君が言ったんじゃないか」

 

女「りんご」

 

男「急にしりとり?えっと、、、ごんぎつね」

 

女「寝よっか」

 

ジュッ

 

ガラガラ